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パイオニアのBPEAによる非公開化スキーム

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先日、カーナビ/音響機器の製造を手掛けるパイオニアがベアリング・プライベート・エクイティ・アジア(BPEA)の参加に入り上場廃止となるというニュースが発表されました。

 

www.nikkei.com

 

このスキームが結構面白そうだったので少し調べてみました。

 

 

1:本件スキーム

実行前のファイナンス状況

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出所:ニュースリリースよりnekozuki作成

 実行前の資金調達は、上記のようなイメージであると思われます*1

今回のリリースでも記載がありますが、本件スキームの実行以前からBPEAがファイナンス面でパイオニアを支援しています。

 

 

2018年 9月 12日 "スポンサー支援に関する基本合意書の締結に関するお知らせ"

https://jpn.pioneer/ja/corp/news/press/2018/pdf/0912-1.pdf

 

9月のブリッジローンは足元の運転資金を一時的に調達するためのものであり、この時点で再建のための第三者割当増資は予定されていたことがわかります。

そこから、約3か月間は、本件リリースに記載の通りBPEA以外のスポンサー候補について提案を受け付けるプロセスを進めた+BPEAにてより詳細なDDを行いスキームの検討を進めた結果であると思われます*2

 

実行スキーム

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出所:ニュースリリースよりnekozuki作成

 今回のスキームは、緊急性のある運転資金をブリッジローンで事前にファイナンスしていることもあってか非常に面白いです。実行されたスキームを見てみると、大きく2段階に分かれています。

まず1段階目において、第三者割当増資によるBPEAからのエクイティファイナンス770億円を受けます。この際、BPEAは520億円を金銭により支払い、250億円相当についてはすでに実行しているブリッジローンに係る貸付債権の現物出資により実行します。いわゆるDES(デットエクイティスワップ)です。

不良債権化したローンをエクイティに振り替えることで財務リストラを進めるこの手法は、バブルに焦げ付いた債権の処理に活躍したようですが*3、近年は不良債権処理も一巡し、企業の業績も好調のためあまり登場することはありません。また、一般的には日本での主なデットレンダーである銀行が企業の再建を主導する際に行われることが多いスキームです。

直近だとシャープの再建時にも大型のDESが行われています。

www.nikkei.com

現金出資の520億円のうち230億円も結果的にデットの償還に充たるため、結果的にはDESと同様財務リストラ分のファイナンスといえます。

これにより、BPEAは770億円分のパイオニア普通株を手にし、議決権ベースで80.3%を有することになります。これによりこれまで市場で流通していた株式を所有する株主(既存株主)の希薄化率は300%を超えます*4。えげつない…既存の株主は涙目ですね。

 

2:BPEAについて

BPEAについても若干触れておきます。

Baring Private Equity Asia

BPEA自身の沿革も面白いです。

1762年 英ロンドンにマーチャント・バンクのベアリング設立
1995年 ベアリングが破たん、スイス大手金融グループのING傘下に入る
1997年 ベアリングのアジアPE部門が幹部によるMBOによって独立
2000年 INGよりMBOにて独立

出所:アンテロープキャリア

 現在は香港のPEファンドですが、もともとはロンドン発です。親会社が破たんしながらも生き残りMBOにより独立した経緯は、欧米と日本との間のPEファンドの存在感の違いを表しているようにも思います。

 

もう1つ面白い文章がありまして、

2014年には、AV機器メーカーのオンキヨーとともに、パイオニアのAV機器事業を買収と発表したが、出資額が折り合わず撤退した一方で、11月に医薬品の受託製造を手掛ける武州製薬を約770億円(負債を含む)で買収した。
2018年、経営再建中のパイオニアとスポンサー支援に関する基本合意書を締結、総額500億~600億円の出資の意向を発表した。

出所:アンテロープキャリア

とあります。

2014年にパイオニアはすでに再建の第1段階としてクラウンジュエル的にDJ機器事業をカーブアウトしています。

この際は、最終的にKKRがスポンサーを勝ち取りました。

jp.reuters.com

当時からBPEAは、パイオニアに関心をもち、コンタクトを取っていたことがわかります。

 

3:パイオニアの現状

イオニアの業績も簡単に見ておきます。少し細かく流れを見るため四半期の業績トレンドをFY2015-FY2019で並べています。

 

売上高は、FY2015 3Qの1,364億円をピークとして徐々に減少しており、FY2019 2Qは871億円となっています。CAGR(15-19 2Q)は-7.2%と大幅な減少トレンドです。

このまま減少が続けばジリ貧でしょう。

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出所:四半期報告書よりnekozuki作成

営業利益はさらにひどくFY2018後半から赤字転落しています*5

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出所:四半期報告書よりnekozuki作成

続いてEBITDAとマージンです。

ピークがFY2016 4Qの102億円(マージン9.3%)で、FY2019 1Qには一時40億円(同4.8%)まで縮小しています。

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出所:四半期報告書よりnekozuki作成

ただ、FY2019 2Qで64億円(同7.4%)まで持ち直すなどブレがあるうえ、営業利益ほど悪化していません。

これは、直近の投資に係る減価償却により営業利益が圧縮されているのに対し、EBITDAは影響を受けないためです。

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出所:四半期報告書よりnekozuki作成

最後にキャッシュフロー推移です。

営業キャッシュフローのプラス幅が徐々に減少しているのがわかる通り、収益力は徐々に失われていることがわかります。

また、推移をみて興味深いのは恒常的に年間200~300億円前後の投資が発生している点です。EBITDAの項目でもコメントした通り、減価償却負担により営業利益の縮小幅は売り上げの減少率以上に大きくなっています。しかし、この投資による新規製品開発が軌道に乗れば売上・利益面でも将来的な成長トレンドへの再転換が狙える可能性はあるのかもしれません。
 

4:所見

本件の770億円という絶対額だけ聞くとかなり大規模な投資に聞こえます。特に、IRR20%以上を求めるPEファンドがフルエクイティで投資すれば、かなりのバリューアップが必要になるでしょう。 

一方で、今回のスキームでデットプロバイダーおよび既存株主はすべて排除されることになるため、既存株主排除後のBPEA投資額=株主価値≒企業価値(EV)の状態になっているものと思われます。

EV:770億円とすると、FY2018 EBITDAmultipleで3.5x程度ですのでそこまで高い買い物ではないかもしれません。

4年後(FY2021)EXITと仮定し、IRR20%を達成する水準は、930億円弱でmultiple:4.5x水準です。デットレバレッジを一切考慮しなければ年間40億円相当のバリューアップが必要になります。決して簡単ではないですが、前述の投資内容によっては再建軌道に乗りうると判断したのでしょう。

 

また、仮に成長軌道まで回復させることができなかった場合であっても、現状の金融環境が継続した場合、LBOによりEBITDAmultipleで7.0~8.0xのファイナンスがつく可能性があるため、ある程度事業の止血さえできれば、買収価額より高い価額でのトレードセールによりEXITは可能であろうと思われます。

 

※参考資料

本件については非常に詳細に資料が作成され当社HPに掲載されています。

より詳細にご関心のある方は以下のリンクから資料をご覧ください。

jpn.pioneer

 

 

DES・DDSの実務【第3版】

DES・DDSの実務【第3版】

 

 

買収ファイナンスの法務(第2版)

買収ファイナンスの法務(第2版)

 

 

 

*1:過去の財務状況の振り返りは概要のみで省略します。イメージはリリースの資金使途から類推しているため、実際の当社全体の調達とは若干異なる可能性があります。

*2:その他スポンサーの選定は、9月時点でBPEAと基本合意が締結されている以上、おそらく形式的なものであったと思われます。既存株主の希薄化を伴うことが確実であるがゆえにBPEAのみに当初から増資の割当を決定することは既存株主の利益を毀損することから、当社経営陣としては善管注意義務を果たすため、よりよい提案を検討する必要があるという点で外せない点です。

*3:当方は当時をリアルタイムで知る世代ではないです…残念。

*4:東証有価証券上場規定432、601①(12)等から希薄化率が25%超である場合や300%超である場合は、それぞれ第三者委員会による判断、上場廃止などが必要となります。希薄化率=新規発行株式数(議決権数)/既存発行済株式数(議決権数)です。今回は、15,400,000株/3,781,611株=407%であり、300%を超える希薄化となるため上場廃止となる見込みです。

*5:本件とは無関係ですが、1Qは極端に売り上げが立たない業界のようです。どういう理由なのか気になります。