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法とITのシステムアーキテクチャ

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私は以前から、法システムの構造とITシステム(ハードウェアからアプリケーションまでを含む)の構造に、設計思想として類似性があるのではないかと考えてきました。

法システムとITシステムのアーキテクチャには、階層構造、役割分担、進化のメカニズム、モジュール性、エラーハンドリングという観点から、明確な構造的類似性が見られます。

 

1. 階層構造

法システムは、社会の秩序を維持し、個人の権利と義務を規定するルールと手続きの体系です。法は明確な階層構造を持っています。

  • 頂点として憲法があり、国家の基本原則や権利を定めています。
  • その下に法律(国会で制定)、政令(政府が制定)、省令条例地方自治体が制定)が続き、各層は上位の規定に基づいて機能します。

ITシステムにも同様の階層的アーキテクチャが見られます。代表的な例として、OSI参照モデルがあります。

  • 物理層(ハードウェアによるデータ伝送)からアプリケーション層(ユーザー向けの機能)まで、7つの階層で構成されます。
  • 各層は特定の役割を担い、上位層は下位層のサービスを利用して動作します。

このように、法システムの「憲法→法律→政令」という階層構造は、ITシステムの「物理層ネットワーク層→アプリケーション層」という階層構造と類似しています。

2. 役割分担

法システムでは、三権分立(立法・司法・行政)による明確な役割分担があります。

  • 立法:ルール(法律)を作成
  • 司法:ルールを解釈し、紛争に適用
  • 行政:ルールを執行し、社会に実装

これと同様の役割分担が、ITシステムのMVCアーキテクチャ(モデル-ビュー-コントローラ)にも見られます。

  • モデル:データの処理やロジックを担当
  • ビューユーザーインターフェースとして情報を表示
  • コントローラ:ユーザーからの入力を処理し、モデルとビューを調整

両者には明確な対応関係があります。立法がルールを作成するように、モデルはシステムの核心的なデータ処理を担います。司法によるルールの解釈・適用は、コントローラによる入力処理に相当し、行政による実行はビューによる結果表示と類似しています。

3. 進化のメカニズム

法システムは、時代の変化や新たな社会課題に対応するため、法律の改正判例の積み重ねによって進化します。例えば、技術の進歩に伴い、デジタルプライバシーに関する新しい法律が制定されます。

同様に、ITシステムもソフトウェアのバージョンアップパッチの適用を通じて進化します。新機能の追加やセキュリティ強化が主な目的であり、サイバー攻撃への対策としてセキュリティパッチがリリースされます。

両システムとも、外部環境の変化に適応し、システム全体の有効性と信頼性を維持・向上させる仕組みを備えています。

4. モジュール性

法システムには、特定の領域に特化した法律があり、それぞれが独立した「モジュール」として機能します。

  • 刑法:犯罪と罰則を規定
  • 民法:個人間の権利義務を規定
  • 商法:商業活動に関するルールを規定

ITシステムでも、モジュール化は重要な設計原則です。システムを小さな独立した部分に分割することで、以下の利点が生まれます:

  • 保守性の向上(一部の修正が全体に影響を与えない)
  • 再利用性の向上(他のシステムで使い回せる)
  • 開発効率の向上

法システムの各分野が独立して機能しながら全体として調和するように、ITシステムのモジュールも独立性と協調性を兼ね備えています。

5. エラーハンドリング

法システムには、違法行為や紛争が発生した際の対処メカニズムがあります:

  • 罰則(違法行為への制裁)
  • 裁判制度(紛争解決)

一方、ITシステムでは、エラー検出例外処理がシステムの安定性と信頼性を確保します。例えば、予期せぬ入力を受けた場合でも、例外処理によってシステムのクラッシュを防ぎます。

両システムとも、「異常」や「誤り」に適切に対処し、全体の秩序と機能を維持する仕組みを持っています。

結論と応用の可能性

以上のように、法システムとITシステムのアーキテクチャには、次のような構造的類似性があります:

  • 階層構造憲法OSIモデルのような層状の設計
  • 役割分担三権分立MVCのような機能の分離
  • モジュール性:特化領域の独立性
  • エラーハンドリング:罰則や例外処理による安定性維持

これらの類似性を理解することで、相互の設計原則を応用する可能性が広がります。

例えば:

  • 法システムのモジュール化をさらに進めることで、法律の理解や適用が容易になる可能性があります。
  • ITシステムのエラーハンドリング手法を参考に、法システムの紛争解決メカニズムを効率化することも考えられます。

法システムとITシステムは、異なる分野でありながら、そのアーキテクチャには多くの共通点があり、これを活用することで双方の改善に寄与する可能性があります。

 

※おすすめ文献

直接的な関係はないが、関連する領域で面白い本のご紹介

 

「コードは法である」という考えのもと、サイバー空間において、ソフトウェアやハードウェアの設計(コード)が、法律と同様に人々の行動を制約・誘導する力を持つと指摘した本。

 

情報環境におけるアーキテクチャがユーザー行動にどのように影響を及ぼしてきたか/及ぼしていくかを分析した本。冒頭で『CODE』のおける指摘「コードは法である」が参照され、アーキテクチャ(設計思想)ユーザー行動を制御すると言及されている。

 

法のデザイン

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上記2冊とは転じて法律側の本。著者はクリエィティブやスタートアップ向けのリーガルアドバイスを専門とする弁護士。法システムも社会の変化やクリエィティブな活動のためには、うまく使いこなし、なおかつ、「再設計」していくことが重要であると説く。