客単価4,000円の謎
ただの独り言ですが、安ウマで有名とかじゃない限り、東京だと4,000円ぐらいの居酒屋が1番ハズレ引く率が高いなと思う
— Bakuneko (@Bakuneko_chan) 2023年5月24日
上記のツイートでそれなりの数の賛同が得られたため、多くの方が感じているものと思われる。
なぜ、東京では客単価4,000円台の飲食店でハズレを引く確率が上昇するのか。
何らかの構造的な要因がありそうなので、少し背景について考えてみたい。
1.なぜ4,000円か?
飲食店のビジネスモデルを考えるにあたって
売上-費用=利益
という簡単な損益モデルを考える。
この時、もう少し各変数をパラメータに分解すると、
売上=客数×単価
費用=変動費(客数×1人当たりコスト)+ 固定費
となる。
売上
居酒屋の場合、厨房面積比率は30%、客席数は2.5~2.7席/坪(大衆居酒屋)ぐらいのよう。
賃貸面積40坪とすると客席面積は28坪で客席数はおおよそ70席となる。
簡単化のため営業は夜のみとし、18時開店-27時閉店とすると営業時間は9時間。1顧客の滞在時間を平均3時間とすると最大3回転/席となるが、片付けや呼び込みの間、開店直後の閑散等を考えると実際のところ2回転程度が限界か。
70席の半数(35席)が埋まっている状態で2回転する(4人×9組と考えると結構きつい印象ではあるが……)として、1日あたり客数は70人となる。
そうすると、1日あたり売上=70人×4,000円=28万円
週1日のお休みとして、1月あたり売上=28万円×26日≒730万円
コスト
飲食店の場合、原価率は一般的に30%程度であるとのこと。
変動費はすべて原価とした場合、
1月あたり変動費=730万円×30%≒220万円
固定費は人件費と家賃のみとし、
:人件費は正社員(調理)+ バイト(ホール)×2の3名として計算
正社員の月給は35万円(年収420万円)
バイトは時給1,300円
とすると、1月あたり人件費=35万円+(1,300円×9時間×26日)×2≒96万円
:店舗立地はコメントでも多かった新宿駅を想定し、賃料月額100万円(坪:2.5万円)として計算すると、
固定費=96万円+100万円=196万円
よって、730万円-220万円-196万円=314万円
かなり費用はどんぶり勘定(固定の光熱費も昨今だとかなり負担がかかりそう)ではあるものの、半分ほど席を埋め続ければ月に約300万円の利益が出ることになる。
逆に、利益が0になる売上(損益分岐点)を考えると
=196万円÷{1-(220万円÷730万円)}=280万円
これは1日当たりの客数で280万円÷26日÷4,000円≒27人である。
上記同様に2回転と考えると大体4人組が3組程度入っていればよいことになる。
なんとなく現実味のある水準ではなかろうか。
実際ハズレの居酒屋に入った時の記憶を思い起こしても、ピークタイムなのにがらんとしていて、ざっと見まわしてもお客さんが1組か2組ぐらいしか見つからないことが多かったような印象がある。
これは、そういった水準の客入りでもつぶれない利益構造であるということの証左なのかもしれない。
上記のビジネスモデルについて改めて整理すると、ハズレの居酒屋とは、最低限の工夫による運営を目指したローコストオペレーションの居酒屋と言えるだろうか。
2.なぜ東京/大規模駅か?
ツイッター上での反応も、「新宿ではハズレを引きがち」といったものがいくつかあり、確かに東京の大規模ターミナル駅で特にみられる事象であるとの認識である。
では、なぜ東京/大規模駅でハズレ居酒屋に遭遇するのだろうか?
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自然流入が見込める
これはある種単純な理由で、人流が見込まれる立地に店舗を構えているにすぎないからであると考えられる。
上述の通り、極力手間をかけないとはいえ利益を上げ続けるには3~4組程度の客入りは欲しいところで、積極的なマーケティングも行わないのであれば、放っておいても飛び込みでお客が入ってくるようなエリアが望ましいだろう。
そうすると、ニッチな駅に店を構えるよりは客入りを見込みやすく、極力手間をかけずに運営するのでれば都合がいいだろう。
一方で、賃料は高くなるため固定費が相応に発生する点は留意が必要である。
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単純に空き店舗が多い
大規模駅の家賃が高い中で、コストが安くなるかは議論の余地があるが、ハズレ居酒屋が物件のユニークさを考慮しないと仮定すると、そもそもの店舗数が多く出退店頻度が多い大規模駅のほうが簡単に出店候補を見つけることができるだろうし、あわよくば居抜き(過去の店舗が使用していた内装をそのまま使用すること)での出店候補も見つけることができることからも、大規模駅のほうが立地としては良いのだろう。
3.なぜ”肉寿司”か
上記の合わせて、「この価格帯で肉寿司は地雷」という声もあった。なんとなく納得感はあるが、これはどういう理由だろうか?
おそらく肉寿司に限らないのだろうが、何等か共通の「危険なメニュー」がありそうである。
まずは、肉寿司をもう少し抽象化してみたい。
とはいっても、肉寿司の要素は基本的に、
- レアの肉
- 酢飯
- 握った酢飯の上に肉を乗せる
の3つだけだろう。
これらから推測できるのは、①調理工程が簡単であること(バイトでも作れること)、②食材の鮮度が要求されないこと(比較的保存がきくこと)だろうか。
よくある居酒屋メニュー(ポテトフライや枝豆、唐揚げなど)は大半が上記に該当するだろう。
また、個人的にはどこかで拾ってきたような写真を宣伝に使っているイタリアンも怪しいと思っているが、サラダやパスタなども比較的簡単に調理できるものと思われる。
もう1つ、個人的には”創作居酒屋”というワードも危険であると感じる。
ハイエンドの飲食店であれば、”創作”は「特定のジャンルにとらわれないユニークな料理」という意味になるが、ローエンドの価格帯ではその言葉は「なんでもありの雑多な料理」というニュアンスになる。
地雷を踏みぬかないための教訓
以上つらつらと検討してきた結果として、以下に注意することで一定程度地雷を避けることができるのではないかと考えられる。店選びの際の参考にしていただきたい。
なお、本来は「大規模駅で飲まない」「先にしっかり店を選ぶ」と言いたいところではあるが、本末転倒なので、それらは除外する。
- 切るだけ、温めるだけといった調理の工程が著しく簡易な料理ばかりが並んでいる場合は注意
- はやりの食べ物(肉寿司)をやたらと推している店にも注意
- お店のコンセプトが不明、”創作”といった言葉で何を出しているのかよくわからない店には行かない
なお、最後に私自身の経験としては、友人に店選びを完全に任せ、新宿で単価4,000円前後の居酒屋に行った際、炭火焼鳥を注文したところレンジで温めたであろう焼き鳥に黒いペースト(原材料不明)が塗りたくられて出てきたことがある。
被害者が増えないことを祈るばかりである。
- 参考URL
簡易的に収益性等を計算する際、店舗規模や人件費の仮定においては以下を参考とした。
https://pro.kao.com/jp/food-biz-support/management/business-column/024/
https://www.inshokuten.com/ma/manual/magazines/20/#:~:text=一般的に飲食店,いいという訳ではありません。