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メザニンというニッチな商品:総論

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※2018年の記事を一部修正して掲載

 最近お仕事でメザニンファイナンスを扱うことが多くなったので、この一般的ではない商品について、自分の整理もかねてまとめたいと思います。

www.finance-neko.com

 

 

1:総論

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出所:筆者作成

そもそもメザニンファイナンスの"メザニン"とは何でしょうか?

ストラクチャードファイナンスにありがちな海外の考え方をそのまま持ってきたことによる英語表現そのままなので分かりにくいですが、

Mezaninne = 中二階

を指します。

中二階という言葉は図を見るとイメージがしやすくなると思います。

資金を外部から調達する仕組みを考える場合、

  • 負債による調達(銀行借入、社債)
  • 資本による調達(株式[普通株]、CB)

がまずは想定されます。

 

メザニンファイナンスは、負債と資本の中間的な性質を有しており、商品設計によって「負債的」であったり「資本的」であったり柔軟な設計が可能な点が特徴です。

 

2:商品設計

まず、メザニンファイナンスといえど形式上は借入又は社債(デット)*1か株式(エクイティ)の形式をとります。ただし、そこにいくつかの契約条項等を設定することで 

ローン⇒劣後ローン
普通株優先株式

とすることでメザニン性を付与します。

また、リスクリターンで見た場合基本的な条件としては、

  • 一般的なローンや社債の債権者(シニアという表現をよく用います)に対して、投資の回収が劣後すること、逆に、普通株式のようなエクイティ投資家よりも優先して回収されること
  • リターンはシニアより高く、エクイティよりも低い。また、多くの場合、固定リターンでの投資

といった特徴があります。

 

ここでよく誤解した発言を見るんですが、劣後ローンまたは優先株式の形式を取っているからといってメザニンファイナンスであるとは限りません

 

それぞれが指す概念を整理すると、

 

メザニンファイナンス:リスクトランシェ=どのようなリスクをとるか

劣後ローン/優先株式:商品性(法的な性質)=どうやってリスクをとるか

 

 

つまり、事前に投資家として取りたいリスク(またはそれに応じて得られるリターン)が設定され、それを実現するための商品性(法的なストラクチャリング)として劣後ローンや優先株式を使っています。

例えば、スターアップが資金調達を行う際にも優先株式を使うことがありますが、この場合の優先株式には固定的なリターンが設定されることは珍しく、あくまで事業がうまくいった際の利益配分を優先する*2設計とすることから、とるリスク(期待されるリターン)はエクイティであるといえます。

3:利用シーン/条件イメージ

あまり一般には知られていませんが、いろいろなところでひそかに使われているのがメザニンです。

中小企業のコーポレートファイナンスではやはり対象会社の母数が多いだけに広く使われています。特に、金融庁が「資本性借入金」として利用を奨励している条件に合致しているものは金融機関(銀行)の自己査定上"資本"としてみなされるため、マーケット調達においてエクイティファイナンスが実行できない中小企業にとっては非常に重要な施策であると思います。

「資本性借入金」の積極的活用について:金融庁

資本性ローン|日本政策金融公庫

条件は大体リターン4~8%、期間5年超などというイメージです。

資本性劣後ローンとして設計する場合日本政策金融公庫の商品がまずはメルクマールになることが多いです。

上場企業のコーポレートファイナンスにおけるメザニンは特に"ハイブリッドファイナンス"と表現されます。一般的にはハイブリッドファイナンスを利用するのは格付機関からの外部格付を取得している企業で大型の資金調達が必要な企業です。

ハイブリッドファイナンスは格付機関による格付上一部が資本として認められる*3ため、一般的なデットファイナンスよりも格付の下振れ圧力を軽減することができます。

R&I

https://www.r-i.co.jp/methodology_cross-sector/2018/06/methodology_cross-sector_20180608_jpn.pdf

S&P

https://www.standardandpoors.com/ja_JP/delegate/getPDF?articleId=2047408&type=COMMENTS&subType=CRITERIA

条件は、金利が1%前後*4、期間は30または60年*5といったイメージです。

金利水準は各企業によって異なりますが、シニアローンがマイナス金利以降低スプレッド化していることで非常に低利化しています。

 

主にバイアウトファンドが事業会社を買収する際に、ファンドとしての出資(エクイティ)とは別に、買収用SPCが買収対象の事業会社のキャッシュフローおよび資産を担保として調達するファイナンスを指します。

こちらも低金利/金融緩和の影響を受け、レバレッジ水準のワイドニングが進んでいますが、それ以上に買収価格の高騰が進んでいる印象です。

直近での取引はEV/EBITDA multiple 10x~12x程度がざらです。

シニアローンの上限が7x程度、ファンドは極力エクイティを減らしつつシニアの要求する資本バッファを満たす2~3xを拠出しても不足する部分が出てくる場合があります。

こうした際に、メザニンとして0x~2xが投資されます。

条件は、金利が7~8%、期間は7年超といったイメージです。ただし、基本的には1~2年の間にコーポレートのリファイナンスによりメザニンはExitすることが多い環境です。

 

  • その他

その他、アセットファイナンス(債権の流動化、不動産ファイナンス)やプロジェクトファイナンス等でも利用されていますが、ざっくりとしたストラクチャーは同様なのとそこまで詳しくないので割愛します。

なお、クラウドファンディングの中でも"ソーシャルレンディング"と呼ばれる分野の裏付資産は劣後ローンが散見されます。

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 どこまで投資家がスキームを理解しているのか知りませんが、ここまで説明してきた通り相当程度リスクをとった商品であることは理解しておくべきだと思います*6

 

4:何のために必要なのか?

業界外の方にはよく「何のために必要なの?」と聞かれます。

  • シニアローンで十分では?

これまで銀行がひたすら貸し続けてきたからか、「借入(シニアローン)でいいじゃん!」という方が結構います。シニアローンで調達できるのであれば問題ありません。ただし、シニアローンですべて調達できるとは限りません。また、これが当該金融機関の融資姿勢の問題であれば他行に相談することで追加で借り入れ可能かもしれませんが、当社のBSの構成上ローンでの調達がそもそも厳しい場合もあります*7。一部を資本性の劣後ローンで調達することにより、今後のデットファイナンスのしやすさも変わる可能性があります。

上記はコーポレートを念頭に置いて説明していますが、ストラクチャードファイナンスでも同様です。初回実行時にはシニアが抱えきれない分のリスクをメザニンが負担し、順調に償還が進んだ際にリファイナンスによりシニアに切り替えるのが一般的です。

逆に、「シニアローンが自己資本の問題で難しいならエクイティでいいじゃん」という方もいらっしゃいますが、これはさらにハードルが高いです。エクイティファイナンスは、中小企業の場合そもそも機会がほぼないほか、上場企業でも株価や既存株主の希薄化対応などが必要でいつでも実行可能というわけではありません。

ストラクチャードファイナンスの場合は、そもそもエクイティ投資家の投資金額を最小化しリターンを最大化することが目的であるため、エクイティ投資金額が増えることで期待リターンがハードルに届かなくなる可能性もあります。

 

以上のようにシニアとエクイティのそれぞれのニーズから生まれてきたのがメザニンです。

詳細な商品設計はまた別の形でまとめたいと思います。

 

非常に特殊な存在で面白いので、ぜひ興味ある方は調べてみてください。

 

 ※参考文献

 明確なメザニンについての解説書はないですが、断片的に説明されていて面白い本を列挙しておきます。

ハイブリッド・ファイナンス事典

ハイブリッド・ファイナンス事典

 
DES・DDSの実務【第3版】

DES・DDSの実務【第3版】

 
買収ファイナンスの法務(第2版)

買収ファイナンスの法務(第2版)

 
日本のLBOファイナンス

日本のLBOファイナンス

 
M&Aファイナンス

M&Aファイナンス

 
会社法のファイナンスとM&A

会社法のファイナンスとM&A

 

 

 

*1:便宜上ここではローンで説明します

*2:テクニカルには、残余財産分配権について、優先配分比率を既定し、普通株主よりも優先して利益を確保できるようにします。

*3:上記資本性借入の要件と調整することで銀行の自己査定上も資本と認められる可能性があります。また、会計基準IFRSとすることでそもそもの会計上の計上形式を資本とすることも可能です。

*4:ただし、リファイナンス/償還の蓋然性を高めるため、初回コールのタイミングで金利のステップアップが設定されます。

*5:格付機関の資本要件として超長期であることが求められます。無期限=永久という場合もあります。

*6:すでにデフォルトが多数発生して問題になっているので遅いかもしれませんが。

*7:銀行が企業の与信をする場合、純資産(自己資本)の厚さを重視します。