最近読んだエモ系小説のご紹介。
それほど大衆の人気を博してはいないかもしれませんが、近年の文学賞作品には現代のより先端的な活動(特に経済的な営み)を反映した作品が増えてきてます。
私は個人的に経済小説が好きで真山仁や黒木亮なんかをよく読むのですが、仕事や経済を主題としていない小説でも、経済や仕事を扱うもの増えている印象です。
こういった小説を読むと何故か“エモみ“を感じます。エモい文章の代表格といえば青春小説かもしれないですね。高校生なんかがピュアな恋愛するやつ。超エモいです。そういうのもいいんですけど最近の上記のような小説も面白いです。
なんだかわからないエモ小説の正体は、現代のなんとも言えない閉塞感みたいなものを正確に捉えていて、それが伝わってくるからではないでしょうか。学生を描く作品とはまた違うリアルな若者の姿です。
これから紹介する小説は、どれも「働く」や「経済」みたいなものがちょっとずつでも題材になっています。いわゆる経済小説と違うのは、そういった経済活動が必ずしもポジティブに描かれていない(むしろその重みに苦しんでいる若者が主題)点が描かれていることでしょうか。
目次
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ニムロッド
2018年の芥川賞作品。芥川賞作品で“仮想通貨“が題材になるとは思いませんでした。
あらゆる面で時代を映し出している作品です。
主人公は、IT企業でデータサーバの保守を行っているが、自分や自分の仕事の存在価値みたいなものに疑問を覚え始めます。そうしたときに会社が仮想通貨の採掘事業を始め、主人公が担当することになります。主人公と外銀勤めのバリキャリ彼女は、それぞれでは存在価値を確立できない人間同士の"相互承認"という意味で仮想通貨の構造をトレースしている関係。「"価値"とは何か?」を問う作品。
本書についての細かい感想は以下の記事で↓
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シェア
スタートアップ経営者の元妻とベトナム人学生の生活『シェア』。
外銀セールス、戦略コンサル、バーテンのシェアハウス『サバイブ』。
それぞれに違う世界観ではありますが、なんとも言えない空気感。いずれも社会の中で自分の居場所を求めて戦う人々を題材にしています。
本のタイトルでもある『シェア』は、株式(share)と共有(share)のダブルミーニングです。
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サバイブ
戦略コンサル(サバティカル中)の主人公がかつての先輩に頼まれた仕事は、バイアウトファンドへの誘いを断り消えたタイ人の女性に話を聞くことー。
『シェア』と同じく加藤秀行の作品。プロットが元戦略コンサルの著者ならではの視点でありつつ、文体は経済小説的ではなくより抒情的な作品。
芥川賞候補作なだけに、無駄のない洗練された文体。
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明け方の若者たち
就活終わりの打ち上げであった彼女との報われない恋の話ー。
恋愛小説なのでストレートなエモさもありますが、それを取り巻く環境はより現代的だなと感じました。自尊心を満足させるために開かれた就活の打ち上げですが、多くは理想通りの世界にたどり着けず自分を納得させようとしています。さらに、入社後も思い描いた社会人生活とのギャップに苦しむ…。作品の本筋である恋愛模様だけでなく、社会人としての主人公たちの苦悩も何か共感するものがあります。
今回紹介した作品にはコンサルや外銀のような就職活動で人気の職業の人物もたくさん出てきますが、こういった人々も例外なく何かにもがき苦しんでいます。
普通の経済小説ならば、大きな仕事をして非常にかっこいい姿が描かれるだけでしょう。知人の話を聞いていると、もちろん仕事のやりがいはあるんでしょうが、ハードな仕事の中で身体を壊す人もいますし、決してそこが人生のゴールではないんだろうと思います。
そういったこれまで描かれてこなかったリアリティを描いているという意味で、エモな小説のご紹介でした。